ちょっと長くなるけど、先ほど書いた通り、この本の裏話をー。
(誰の役にも立たなそうだけど、「若い料理研究家が初めてパンの本を作った時の話」)
この本は私が20代後半の頃に作ったのですが、
実は制作の期間がすごく短くて(企画をいただいてから出版まで半年くらいだった気がする)
短期間で本一冊分のレシピ(100種類くらいのパンの配合)を作らなくてはならず、「どうすりゃいいの〜」と途方にくれたことを覚えています。
何せ、若くて経験が少ないんだもの。
そこで私の考えた方法は、とにかく1日をフル回転させるということでした。
やり方は以下のとおり。
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10台以上のホームベーカリーを狭い家に並べて、
私はレシピマシーンの如く、どんどんレシピを書きまくる。
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正確に計量してくれるアシスタントさんを雇い、
どんどん計量してもらう
↓
焼き上がったらパンの様子を見て味を見て、
数g単位でレシピを調整してまた計量→焼く→観察味見
(周りの人にも配りまくって、感想を聞く)
↓
これを1日4回転すれば毎日50斤くらいのパンは焼ける。
(夜中にも起きて材料を入れるの!)
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無謀にもお仕事をお受けした当時の私は、パンの科学がよくわかっていなかったので、
そんな感じで体当たりで材料の特性を学んでいきました。
その時「同条件下で比べる」ということがとても大切で、
たとえば同じ機種で、一つの条件だけ(砂糖の量だったり、油脂の量だったり)をちょっとずつ変えて
延々試作と試食、記録を繰り返すんです。ギリギリまで増やしたり減らしたりして。
さすがに3ヶ月くらい毎日それを続けたら、
パン屋さんのパンを食べれば大体ベーカーズパーセント(小麦粉に対して他の材料が何%くらい入っているか)
がわかるようになったし、
出来上がりから逆算して数字を出せるようになりました。
(これはパンのプロなら誰でも自然にできることなので、特筆すべきことでもないのですが、
経験の浅い、当時の私には高いハードルでした。)
そして最初は「20回の試作で1レシピできる」というところから、
10回、5回と、効率も良くなっていく。
何の仕事もプロになるためには数をこなすことがどうしても必要だと思うのですが、
料理研究家の仕事というものが、体に入っていったのは、この時期だった気がします。
そしておかげさまでこの本は多くの方にお求めいただいたけれど(ありがとうございます!)、
当時、たいてい本が出版される頃には、
次の本とか次の次の本を、また死に物狂いで作っていて、
過去の本はどうにも恥ずかしくなってしまっていて、
実は出版後長いこと見返したことがなかったんです。
昨年時間ができて、10年以上ぶりにこういった初期の著作をいろいろ見直して、
ああこんな本作っていたんだなあ、
荒削りでやっぱり恥ずかしいけど、
これらのレシピは今でもどなたかのお役に立つことがあるんじゃないかなあ、
と思って、YouTubeで取り上げることにしました。
あの頃、編集者さんもライターさんも、カメラマンさんも、スタイリストさんもデザイナーさんも、
みんな若くて、勢いがあって、
そんな感じで昼夜を問わず必死で仕事して、
一緒にたくさん本作りましたねえ。
そうやって皆さんに育てていただいたから、今はYouTubeを通してお返ししたい、
できたら若い方や料理の苦手な方、これまでご縁のなかった方々のお役に立ちたいと考えています。
なので今年は、過去の絶版になった著作から、いろんな料理をどんどんアップしていきますね。
たまには立ち止まって後ろを振り返ることも、未来につながっていくのではないか、とコロナ禍に教わった気がします。